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水戸家庭裁判所土浦支部 昭和52年(家)509号 審判

申立人 小池信一(仮名)

主文

本件申立はこれを却下する。

理由

1  本件申立の要旨

(1)  申立人は、被相続人大和田きよと同女が後記死亡するまで二七、八年間いわゆる妾関係にあつて、茨城県○○市に居住し、同棲生活を続けた。

(2)  被相続人は、昭和四七年二月二〇日死亡したが、同棲中は同女の療養看護をなし、その死亡の際その葬儀は申立人が喪主となり、供養も行つてきた。

(3)  以上のように、申立人は二七、八年間被相続人と同棲し、特別縁故の関係にあるのである。

(4)  それで別紙目録(略)記載の遺産全部につき分与せられたく、本件申立に及ぶ次第である。

というにある。

調査の結果によると、

1  被相続人大和田きよは、昭和四七年二月二〇日死亡したが、同女には戸籍上直系卑属、尊属がなく、兄弟姉妹もなかつた。それで、昭和五一年一〇月一四日小池信也が相続財産管理人に選任せられ、この事実は同月一九日官報に公告され、同五二年一月一〇日相続債権者、受遺者に対する請求申出催告の官報公告がなされたが、公告期間の満了日である同年三月一〇日まで相続債権者、受遺者、相続人の申出がなく、相続人捜索の公告期間満了後三か月以内に本件申出がなされたこと。

2  (1) 申立人は、大正五年二月八日大村かねと婚姻し、子女を儲けたが、右かねは昭和五二年八月二八日死亡した。

(2) 申立人は、若い頃茨城県○○郡○○町で○○、○○等販売業を営んでいたところ、申立人近所に、被相続人が身寄りなく一人で暮していたので同女と知合となり、申立人方店舗が商売上場所が悪く不向だつたところ、これに反し、被相続人居住の場所が申立人の商売に向いていたため、同女方で商売をさせて貰うことにして、昭和三〇年から同女方を借り、同女と自然親密となり、その頃から被相続人との関係は、いわゆる妾関係となつてしまつた。

(3) 被相続人は、茨城県○○市出身で若い頃から○○として働き、第二次大戦中は上記○○町に移つて旅館の○○などをして働いて金をため、同町申立人方近所に家屋敷を求め、前記のような関係を申立人との間に生ずるに至つた。

(4) その後申立人と同女とは、茨城県○○市に住むことにし、同女即ち被相続人所有の前記○○町所在の家屋敷を売却し、その代金で同市に上地、建物等を求めて被相続人の所有名義とし、買求めた同市○町×丁目に住むことになつたが、申立人は被相続人のヒモ的存在であつて、被相続人が申立人を扶養する関係にあつた。

(5) 被相続人は上記○○市で買求めた土地のうち、同市○○字○○××××番××山林六二四平方メートルを昭和四二年塚本則男に、同市○町×丁目××××番×宅地一六五・二八平方メートルを伊藤たつに、同所から○○市道に至る同所××××番×通路七一・八〇平方メートルの二分の一を伊藤たつに処分して同女と共有として各売却した。

なお、登記簿上被相続人名義の同所××××番×は被相続人死亡の月の二日に申立人に売買したとして、同四七年三月一六日申立人名義に変更されている。

従つて、被相続人の遺産とし現在あるのは、上記伊藤たつと二分の一ずつ共有する通路の別紙目録(略)記載の土地のみである。

(6) 被相続人死亡の際、その療養看護に勤め申立人が喪主となつて葬儀を行い一応供養を行つている。

(7) 申立人は、被相続人死亡後三年位○○市に居住していたが、その後申立人の本籍に戻り、本妻かね死亡の際に申立人が本妻の死亡届を提出していることから、申立人は本籍地に戻つた後妻と同棲していた。

ことが認定できる。

当裁判所の判断

以上認定の事実からすると、申立人は被相続人と約一七年余りにわたつて同棲し死亡当時療養看護をなし、葬儀を喪主として行い、一応供養もしているので、民法第九五八条の三の被相続人と生計を同じくしていた者に形式的に該当しているものと云えないことはないけれども、前認定のように、そもそも申立人と被相続人との関係は、法の認めない公序良俗に反する妾関係であつて、民法第九〇条及び家事審判法第一条の目的に副わないものであるのみならず、申立人は被相続人の俗にいうヒモ的存在であつたというべきであるから、申立人を民法第九五八条の三の特別縁故者として被相続人の遺産を分与することは、民法第九〇条家事審判法第一条の各目的に照し、結局前述の法に副わない法律状態の延長ないし、継続を認容するに等しく、上記法条に反すること明白なものと云わなくてはならない。しかも、民法第九五八条の三は、必ず特別縁故者に相続財産を分与するとは定めておらず、相当と認めるときは相続財産の全部又は一部を与えることができると規定しており、この趣旨こそ、まさに、本件の如き場合に分与を否定する裁量的判断の基準に合致するものと解せられる。

それで、本件遺産は申立人に分与することが相当でないと思料し、参与員石井堯順の意見を聴き主文の通り審判した。

(家事審判官 早坂弘)

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